Lingerie TALK vol.20 『トリンプ』

トリンプ・インターナショナル・ジャパン(株)

コア&サブブランド クリエイティブデザイン シニア・マネージャー 

戸所由美子さん(後編)

 

「女性の悩みをすべて解決した“究極のブラ”を作りたい」

その気持ちは、今も23年前も同じです

 

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語って頂く、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。今回はトリンプ・インターナショナル・ジャパン(以下、トリンプ)で『天使のブラ』『フロラーレ バイ トリンプ』『エッセンス バイ トリンプ』など主力ブランドのものづくりを統括する戸所由美子さんに登場していただきます。『天使のブラ』が誕生した経緯、そしてグローバルブランドとして、ヨーロッパやアジア諸国との連携はどのようにとられているのか、さまざまなお話を伺いました。

1年で終わると思っていたのが
年間197万枚売る大ヒット商品に

 

川原好恵(以下、川原):今や『天使のブラ』はトリンプを代表する商品となりましたが、どのようにして誕生したのですか?

戸所真由美シニア・マネージャー(以下、戸所):『天使のブラ』は1994年に誕生したのですが、実はその前身となる『優子』という商品があって、それが1992年に発売されました。とてもソフトで肌触りが良いツーウェイのマイクロファイバーが出て、それをブラジャーに使いたいと思ったのがきっかけです。『優子』はワイヤーが当たって痛いという声に応えた、とても優しい着け心地のブラジャーでした。

川原:『天使のブラ』は谷間メイクブラの代名詞的な存在ですが、デビューのときからそのコンセプトだったんですか?

戸所:デビューしたときの商品は今とは違っていて、『優子』の流れを受け継いだ、優しい着け心地を追求したものでした。当時はパッドも入っていなかったんですよ。それまでワイヤーの断面は板状だったのですが、それが楕円形になるものを作って肌当たりを優しくしましたし、背部にはツーウェイのマイクロファイバーを使い、ソフトな着け心地にこだわりました。

川原:『天使のブラ』というネーミングはどこから?

戸所:その頃、雑貨店で天使モチーフの商品が人気になるなど、世の中が「天使ブーム」だったんです。そこから『天使のブラ』のブラというネーミングが生まれました。第2弾となる商品から、パッドを入れて胸をきれいに見せるというコンセプトとなり今に至ります。1995年には年間売上枚数が112万枚となる大ヒット商品になりました。ただ、発売当時は『天使のブラ』の販売は1年で終わると思っていたので、まさか23年も続く商品になるなんて、私自身驚いています。

 

1994年にデビューした『天使のブラ』第1号のイメージビジュアル。天使がバストを支えています。

197万枚という最高の年間売上枚数を記録した1999年に発売された『天使のブラ 前でとめて谷間カチカチ』。

戸所さんが最も開発に苦労したとおっしゃる、2007年発売の『天使のブラ 魔法でスリムに』。

機能、品質、価格、納期...
物づくりはそのバランスのせめぎ合い

 

川原:その23年間、ずっと携わってこられたわけですが、どのような気持ちで『天使のブラ』を開発されてきたのですか?

戸所:「女性の悩みをすべて解決した“究極のブラ”を作りたい」という思いは、デビュー時からずっと変わりません。肩ひもが落ちるという悩み解決のために「デルタマジック」を開発し、胸の谷間を調節したいという要望に応えるために「エンジェルクリック」を開発するなど、問題解決や要望を叶えるために数々のイノベーションにも挑戦してきました。時代によって悩みも要望も変わりますから、常に挑戦の連続ですね。

川原:私自身は1998年に発売された『天使のブラ アップ&クリック』がとても印象に残っていて、実は今もとってあるんですよ。左右のカップの間に付けたアジャスターをカチカチと操作して谷間を3段階に調節するという発想には、本当に驚きました。

戸所:はい、あのアジャスター「エンジェルクリック」は開発するのに約4年かかりました。日本の商品は“丈夫で長持ち”である必要がありますから耐久性が必要ですし、発売後の不具合は絶対に許されません。まわりからは「まだなの?」と急かされたりしましたが、とにかく慎重に慎重を重ねました。でもその甲斐あって、1999年春発売の5段階の谷間調節にバージョンアップした『天使のブラ 谷間カチカチ5段階』と、秋に発売した『天使のブラ 前でとめて谷間カチカチ』を合わせて、年間197万枚売れたんですよ。『天使のブラ 前でとめて谷間カチカチ』はメインビジュアルの色を深緑にしたことも画期的でした。今以上にブラジャーの色に対して保守的でしたから、かなりの冒険だったんですよね。でも、他のベーシックカラーを抑えて、深緑が一番売れたんです。

川原:今までで一番開発に苦労されたのは、やはり「エンジェルクリック」ですか?

戸所:色々ありますが、一番苦労して心配したのは2007年に発売した『天使のブラ 魔法でスリムに』に使用したボンディング加工ですね。カップ脇に使用したもので、伸びない生地を貼り付けて2重にし、バストをキープするというものです。しっかり縫ったほうが安心ですが、それでは軽さは出ない、そこで取り入れたのがボンディング(貼り付け)の技術です。当時画期的だったこの技術を使いたい、でも洗濯してはがれるなどの不具合を起こすわけにはいかない……その葛藤でした。納得いくまで試験を繰り返し、やっと発売した後も、お客様センターにクレームの電話が入ってないか、毎日心配で心配で胃が痛くなりましたね。でも、おかげさまで不具合はなく、この加工は後にガードルやトップなどにも使われ、人気商品を支えました。

 

5月31日に発売された最新作『天使のブラ スーパーCOOL』。『天使のブラ』シリーズ史上一番涼しく、通気性3.5倍アップ。モデルはトリンプのグローバルイメージキャラクターであるジェシカ・ハート。

5月24日に発売された『天使のブラ スリムライン』。脇をしっかり押さえてボディラインをすっきりと整え、「天使のブラ」シリーズの中で最もスリムなシルエットを叶える。

スペシャリストが集まって仕事することは
難しくもあり最大の面白さでもある

 

川原:戸所さんがお仕事していて、一番嬉しいのはどんな時ですか?やはり売上が伸びた時ですか?

戸所:先ほどお話したように、品質試験を繰り返すなど苦労した末、万全の体制を整えて売り出した商品に、お客様が共感してくださった時ですね。リピーターになってくださった時も、もちろん嬉しいです。売上は、結果として付いてくるものですから。

川原:逆に一番苦しいのは、どんな時ですか?

戸所:やはり商品を世に出す時です。やりたい商品、品質、価格すべてのバランスを考えて作るそのプレッシャーは何年経っても変わりません。もちろん、開発するにも予算がありますし、その課程は納期とのせめぎ合い。いい物を作りたいからと、永遠に時間をかけられるわけではありません。どこで折り合いをつけるかは、本当に難しいところです。

川原:本社を含め、チームで仕事することの難しさはないですか?

戸所:もちろん難しさはありますが、逆にそれが面白さです。デザイン、素材、パータンメーキング、フィッテイング……それぞれのスペシャリストが集り、みんなでひとつのものを作り上げるのは、とてもプロフェッショナルなプロセスだし、それをチームで成し遂げるのがトリンプです。

川原:これからランジェリーの仕事をしたいと思っている方にアドバイスをお願いします。

戸所:生活すべてにおける経験が血となり肉となる、私はそう思います。私自身、大学時代は昆虫病理学というランジェリーやファッションとはかけ離れたことを勉強していましたが、今、物性やクレームの原因を探るときに、その考え方が大いに役立っています。何が物づくりに役立つかは、本当にわからないし、すべて本人次第です。

川原:長い時間、ありがとうございました。

 

インタビューを終えて…

数々のブランドの物づくりの責任者としてチームを率い、マスコミの前に立ち、ジャパン社の代表として国際会議にも出席する戸所さん。大きな会社の責任ある役職であるのに、その佇まいはいつもしなやかかつ爽やかで、私はずっとファンです。下着という素肌に着けるものであるがゆえの新しい資材や仕様に挑戦するプレッシャーは、ある程度想像はしていたのですが、実際に話を聞いたら、それははるか想像以上でした。

話にもあったように、これまで、トリンプ・インターナショナルの中でも独自の路線を歩んできたジャパン社ですが、ここ最近は一気に本社との連携を深めています。今後の動向にも戸所さんの手腕にも、より一層注目が集まりそうです。

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