Lingerie TALK vol.25 『シェリール』

(株)シェリール 縫製課長

菅野千秋さん(前編)

 

「子供の頃から作るのが大好き。

初めて工場用ミシンを踏んだときは

とても楽しかったです。」

 

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語って頂く、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。これまで、企画・デザイナーの方を中心に取材させていただきましたが、今回から数回にわたり、縫製工場の方やレースのデザイナーさんなど、ランジェリーの物作りを陰で支えていらっしゃる方々に登場していただきたいと思います。まずは、岩手県陸前高田市にあるシェリールで25年のキャリアを持つ菅野さんに、縫製の現場のお話を伺いました。

弊社にあるミシンはすべて踏めます。
もともと負けず嫌いですから(笑)
 

川原:今日はお仕事の途中にお時間をいただき、ありがとうございます。まずは、シェリールの業務内容と菅野さんのお仕事について教えていただけますか。

菅野千秋課長(以下、菅野):シェリールは陸前高田市にある縫製工場で、現在58名が勤務しています。系列会社である島崎の自社ブランド「フリープ」をはじめ、肌着、ランジェリー、ショーツ、ガードルの裁断・縫製・仕上げ・出荷を行っています。入ってくる仕事を期日までに納品できるように生産計画を立てるのが、私の仕事です。弊社は3つのラインがあるのですが、それぞれに得意な縫製がありますし、仕様書に書いてある工程をさらに分析して、より効率良く、完璧に仕上げられるようにラインに落とし込みます。私は全体の流れを見る役割ですが、忙しかったり欠勤者がいたりすれば、私自身もラインに入ってカバーします。

川原::本当に全体を俯瞰で見る、現場監督とも言えるお仕事ですね。欠勤者のカバーに入るとのことですが、ミシンの種類も縫製仕様も色々あるし、流れもあるのに、突然入ってできるものなんですか?

菅野そうですね。弊社にあるミシンはすべて踏めるので、それは問題ありません。もともと負けず嫌いで、人ができなくても自分はできるようになりたい、一番上手になりたい、と思う性格なので「このミシンはできない、この縫製はできない」というのは、自分が嫌なんです(笑)。

川原:なぜ、縫製の仕事に就こうと思われたのですか?

菅野:母の影響もあり、小学生の頃から本を参考に編み物をしたり、ぬいぐるみを作ったり、手を動かして物を作るのが大好きでした。高校卒業後は上京して和服の仕立て屋に就職し、和裁の勉強もさせてもらったのですが、2年弱で故郷の陸前高田に戻ってきました。親戚の者がシェリールで働いていたので、紹介してもらい就職し、今に至ります。

川原:入社してから、仕事はどのようにして覚えていったのですか?

菅野:今でもそうですが、新人が入ると現場で一から教わります。工業用ミシンを踏むのは初めてだったので、仕事はとても楽しかったですね。

*「フリープ(fleep)」
スマイルコットン社の素材を使用した、島崎によるブランド。スマイルコットンは日本アトピー協会の推薦品の認証を受けており、“肌に優しい下着作り”をコンセプトとしています。

陸前高田市の高台にあるシェリールの社屋と従業員の皆さん。ここに勤務する男性は1名のみ。あとは全員女性です。

7種類のミシンが約100台並ぶ工場。3つのラインのうち1つが「フリープ専用」、ほかの2つは入って来た仕事によってフレキシブルに対応。ここでは、縫製だけでなく、裁断・検品・出荷まですべて一括して行われています。

スムーズに効率良く作業を進め、完璧な商品を期日通りに納品できるようにコントロールするのが菅野さんの仕事です。

今までで一番扱いに苦労した生地が
「フリープ」のスマイルコットン

 

 

川原:シェリールでは「フリープ」の生産をされていますが、スマイルコットンの縫製には、ずいぶん苦労されたそうですね。

菅野:はい、本当に大変でした。下着は柔らかい素材・薄い素材を使うものですが、スマイルコットンの柔らかさはまた特別で、その縫製はそれまで扱った素材で一番難しかったですね。ミシンの押さえの圧や、生地を送るときの加減などが他の生地とまったく違うんです。ミシンの設定も細かく調整する必要があり、その設定も生地の色が変わるごと、縫い糸が変わるごと、縫う箇所が変わるごとに調整し直します。それに、湿度によっても生地の状態・糸の状態がわずかに変わってくるので、毎日、生地とミシンのご機嫌を伺いながら、会話しているようなものです。ある程度は、各ラインのリーダーや私がミシン調整をしますが、手に負えないときはメンテナンスの専門に頼んでやってもらいます。

川原:「フリープ」は縫製も他の肌着やショーツとは異なりますよね。

菅野:そうなんです。「フリープ」は、敏感肌の方にも安心して着ていただけるように、肌への負担を極力なくしています。そのため、縫い代が肌に当たらないように表に出し、その後袋縫いにして仕上げるのですが、普通の商品と縫い代の出方が表裏逆なので、合っているのに「裏表に縫って失敗した!」とドキッとしたり、ついいつもの調子で縫って表裏逆に仕上げてしまったり。慣れるまでにひと苦労。初めの頃は、ベテランでさえ他の製品の2倍くらい時間がかかってしまって、納期に間に合わないのではないかとドキドキしました。

川原:その縫い方だと工程も必然的に多くなりますね。

菅野:単純に計算しても工程は通常の商品の2倍になり、カップ付きインナーだと40工程以上になります。組み立てる前の工程も多いので、本当に時間がかかります。

川原:それだけ手間と時間がかかり、神経も使うのであれば、自社商品でなければ請けたくなんじゃないですか?

菅野:………(無言・笑)。確かに苦労しましたが、満足できる仕上がりになると、今度は縫うのが楽しくなって。不思議なものですね(笑)。それに、最近ではOEM(相手先ブランド による生産)をお請けしたメーカーからも「フリープのような仕様で縫ってほしい」というリクエストが多くなりました。いつの間にか、これが弊社の特長になったんだな、と思います。

「フリープ」の定番であるシンプルシリーズの前開きブラ(3000円)とスタンダードショーツ(1800円)。縫い目は表に出して肌に当たる部分をフラットに。タグ類は外側に付けられています。

スマイルコットンは糸の撚りをほぐして「わた」に近い状態にしているので、とても柔らかいのが特長。そのため、縫製には高い技術を要します。5分袖インナー(3600円)、ロングボトム(3600円)。

 

*次回(9/30公開予定)は、日本の縫製工場が抱える問題、東日本大震災からの復興についてお聞きします。

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