Lingerie TALK vol.28『タケダレース』

(株)タケダレース マーケティング本部 デザイン課 係長

橘 篤史さん(後編)

 

弊社しかできない技術を使って

付加価値のある

誰もが驚くレースを作りたい

 

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語って頂く、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。前回の縫製工場シェリールに続き、今回もランジェリーの物作りに欠かせない存在であるレースのデザイナーさんをご紹介します。登場していただくのは、世界にその名を知られるラッセルレースメーカーである株式会社タケダレースで18年にわたりデザイナーとして活躍されている橘篤史さん。レースの基礎知識からレースデザインの醍醐味まで、いろんなお話をお聞きしました。

図案はプロセスを踏むごとに厳しく選別され、
選ばれたものだけが市場へ
 

川原好惠(以下、川原):レースのデザインは、どのようなプロセスで行われるのか教えていただけますか。

橘篤史係長(以下、橘):主に、図案を描いて、ドラフトというデータ化する作業を経て、試作、本生産というプロセスです。描いた図案すべてが本生産されるわけではなく、クライアントの意向などによってプロセスを踏むごとに厳しく選別され、選ばれたものだけが市場に出回ります。

①図案
さまざまなインスピレーションや市場調査、クライアントからの要望などを踏まえつつ、まず、手描きでラフな図案を描きます。方向性がかたまったら、細かい部分まで描いて図案を完成させます。

②ドラフト
図案をコンピューターに落とし込み、色、品質、デザインの設計図案を緻密にドラフティングしていきます。

③試作
まずは白色で試作をします。柄は糸の種類によって出方が大きく変わるため、それを見るのはもちろんのこと、強度は基準を満たしているかなどの物性も確認します。

④本生産
発注が決まったら、本生産に入ります。タケダレースでは、社内に専任者を置き、デザイン案を新製品の試作品が出来上がった段階で、選定して特許庁へ出願し、意匠登録しています。

最初のステップとして、手描きでラフな図案を描きます。

図案をデータ化するドラフト。ラッセルレースにとって重要なプロセスです。

細かい部分まで描かれた図案。

完成したレース。さまざまなプロセスを経て、選別された一部の図案がこうして製品となります。

自分のレースが使われた商品を店頭で見るのは、今でも本当に嬉しい
 

川原:レースデザインは、どのようにインスピレーションを得るのですか?

橘:ファッションのコレクション、トレンドなど分析しながら、感性的に模索することもありますし、市場調査して、今っぽさを探ることもあります。女性に欲しいと思ってもらえることが大前提で、それは身に着けることのできない男の僕にとっては、いつも課題のひとつです。図案を描き始めるときも、商品にどう使うかということを念頭に描き始めるので、自ずとモチーフの大きさなども決まってきます。レースは柄や色だけでなく、糸の太さや光沢感、質感によって大きく表情が変わるもの。それをすべて計算して図案を完成させるのが、レースデザインの大変さでもあり面白さ、醍醐味だと思います。

川原:日本のレースと海外のレースの違いはありますか?

橘:それは、ありますね。例えば、日本の物性検査の厳しさは世界一と言ってもいいでしょう。ベースとなるネットを粗い物にすれば、透け感が出て、繊細な仕上がりになるのはわかっていますが、それでは日本の物性検査に合格できないことも。そのあたりの見極めは、国によって異なります。ただ、大切なのはオリジナリティがあること。存在感があるデザインであれば、国内でも海外でも選ばれますから。

川原:レースデザインの魅力はどのようなところにありますか?

橘:色々と決まり事はありますが、思った柄を自由に描けるのは楽しいですね。毎シーズン新しいものを作る“生みの苦しみ”はいつもありますし、新しい柄が出てこない時は本当に辛いです。ただ、自分がデザインしたレースが商品となって店頭に並んでいるのを見るのは、デザイナーとして18年が経った今でも本当に嬉しいです。さらに、それがヒットしたとなると、嬉しさも倍増ですね。

最新型のラッセル機を有するタケダレースの工場。その生産規模は、世界で5指に入ります。

「使いたい」と思ってもらえる、“売れる”レースを
 

川原:今までで大変だったのは、どんな時ですか?

橘:「レース」というものがわかるまでの約3年は、やはり大変でしたね。私は福井の本社に新入社員として入社したのですが、最初の頃は現場の人に話を聞いても、まったく意味が分からず、何も頭に入ってきませんでした。毎日、機械を扱う人、染色する人、ドラフトする人に教えてもらいながら、徐々にレースが出来上がるまでの仕組みを覚えていきました。レースのデザインはその仕組みがわからないとできないので、弊社に入社したデザイナーは全員研修を受けて現場で勉強します。現在は機械化が進んでいますが、機械に糸をかけるのは人の手。それを自分の手でやることで、簡単に編めないこと、その作業を無駄にできないことを学びますし、染色も実際にやってみて作ることの大変さを体で覚えます。それらを、キャリアの始めにすべて体験できることは、編み立てから染色まで一貫生産している弊社の強みと言えるでしょうね。それに、ラッセルレースの技術は日進月歩で更新されていくもの。その新しい技術を学び、デザインに生かしていくことも不可欠です。

川原:これから、どんなレースを作っていきたいですか?

橘:ご存知のようにレースの歴史はヨーロッパで培われたものです。ただ、日本のレース技術はヨーロッパに決して負けていないし、商品としてもいいものを作っています。だからこそ、多くの海外ブランドからも選ばれているのだと思います。ただ昨今は、中国企業の成長が技術の面でもスケールの面でも目覚ましく、価格競争も非常に厳しいのが現実です。したがって、“美しく魅せる”のはもちろんのこと、さらに“付加価値がある”レースを生み出す必要があります。弊社しかできない技術を使って、その付加価値のある誰もが驚くようなレースを作りたいですね。それを見て感嘆されるだけでは意味がないので、「使いたい」と思ってもらえる、さらにそれが“売れる”商品となるレースを作っていきたいと思います。

川原:今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

染色工場の様子。レースの仕上がり感や品質は、精錬(繊維に含まれているほこりや不純物などを完全に取り除く作業)や染色加工によって大きく左右されます。
(画像提供/すべてタケダレース)

 

インタビューを終えて……

下着にとって不可欠なものでありながら、下着デザイナー以上に表舞台に出ることがないレースデザイナー。今回は、そのお仕事ぶりを紹介したくて橘さんに取材をお願いしました。「レースの仕組みを理解できるまでに3年」というのは、その仕事の奥深さを物語るエピソードでしたし、ランジェリーにとってなくてはならない存在なのに、裏方に徹するその姿勢には、潔さと凛々しさを感じました。それにしても、タケダレースさんが大きい会社であることは知っていましたが、本当に世界中のあらゆるブランドと仕事されていて、その規模は想像以上。日本にこんなレースメーカーがあることを、誇りに思いました。

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