Lingerie TALK vol.30 『中越レース工業』

中越レース工業(株) デザイン企画課 担当課長

横大路 由美さん(後編)

 

大切なのはコミュニケーション能力。

お客様の真の要望を聞き出し

職人さんとイメージを共有してこそ

求められるレースは生まれます。

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語って頂く、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。タケダレースの橘さんに続き、今回もレースのデザイナーとして約18年のキャリアを持つ、中越レースの横大路由美さんに登場していただきます。中越レースはエンブロイダリーレースのメーカーで、国内下着メーカーを中心に幅広く製品を提供されている会社。横大路さんのお仕事の内容やレースに込められた想いをお聞きすると共に、エンブロイダリーレースの魅力や市場の流れについても教えていただきました。

商品企画の仕事を経て、あらためてレースデザインが好きだと再認識
 

川原好惠(以下、川原):横大路さんは、なぜレースデザイナーの道に進まれたのですか?

横大路課長(以下、横大路):短大で空間デザインを学んだのですが、絵を描くことが好きで、バイトでもいいから何かを描く仕事がしたいと思って探していました。その過程でレースメーカーの存在、レースデザイナーという職業があることを知りました。「こんな仕事があるんだ」と思いましたね。大好きな絵(柄)を描くことが仕事になるわけですから、ご縁のあったエンブロイダリーレースメーカーに就職を決めました。当時はパソコンが今ほど普及していなかったため、手で柄を描いて、色を塗っていましたが、それがレースとなって上がってきたときは本当に嬉しかったですし、日々楽しかったですね。「やりがいのある仕事だ」と思いました。その会社に約7年務めたあと、下着メーカーに転職し、商品企画の仕事を1年弱やりました。短い期間ではありましたが、そこでインティメイトアパレルビジネスというものを学ばせてもらいましたし、違う仕事をすることで自分はやはりレースデザイナーの仕事が好き、レースの柄を描くことが好きなんだと再認識しました。その後、またレースメーカーに戻り、7年前から中越レースでデザイナーを務めています。

川原:レースデザイナーの仕事は、どのようにして学んでいくのですか?

横大路:私が新人の時代も今も、入社したら工場で研修を受けるのですが、そこで作り方を見ながら、レースの基礎知識を学んでいきます。学校で教わるわけではないので、まさに走りながらレースのこと、図案のことを学んで行くという感じですね。

エンブロイダリーレース機。1833年頃にエンブロイダリーレース機が発明され、それによって刺繍加工を施したレースを総称して「エンブロイダリーレース」と呼びます。

綿レースを製造している様子

 お客様との間に信頼関係がないと、本当の要望は聞き出せません

 

川原:横大路さんのお仕事のおおまかな流れを教えていただけますか?

横大路:私の場合は、お客様との商談を経て柄を提案する場合、打ち出したい柄を描いてプレゼンする場合とおよそ半々なのですが、前者の場合は、お客様との打ち合わせの中で要望を聞き、それを汲み取って柄を描いて提案します。柄が決まったら、イメージまで含めて工場に伝え、試作します。実は、イメージ通りのレースに仕上げるには、この工場の職人さんとのイメージの共有が大切で、柄を描くのと同じくらい重要です。そして、それをまたお客様に見せ、満足頂けるものができたら、本生産という流れです。これらの過程を納得のいく仕上がりになるまで何度も繰り返しながら、本生産までこぎ着けるという感じですね。

川原:根気もいる仕事だと思いますが、一番大切なことは何なのでしょうか?

横大路:コミュニケーション能力だと思います。最初の商談でも、お客様との間に信頼関係があり、深いコミュニケーションができていないと、お客様の本当の要望が出てきません。それができないと、必要とされるものを提案することができず、採用もされないんです。そして、工場の人とコミュニケーションをとりながら、しっかりイメージを伝え、共有する。レースはメーカーであるお客様に使ってもらって、初めて製品になります。選ばれるためには、繊細さと刺繍の美しさを兼ね備え、時代のニーズに合っているものを提案する必要があるわけですが、それはエンドレスな探求ですね。

川原:レースデザイナーとして一人前になるのには、どのくらいかかるのでしょうか?

横大路:「これができれば一人前」という試験があるわけではありませんから、何を持って一人前とするかは難しいところですね...人それぞれだと思いますが、10年くらいはかかるのではないでしょうか。特殊な仕事ですし、18年レースデザイナーとしてやってきた私も、まだまだ完璧とは言えません。商品化されてすごく売れることもあれば、プレゼンを重ねてもなかなか決まらないときもあります。それを繰り返しながらキャリアを積み、やっと最近少し余裕が出てきたかな、と思うくらいです。

<エンブロイダーレースが製造されるまでの工程>
(資料提供/すべて中越レース)

  1. デザイン作成
    さまざまな情報収集のもと、図案を作成してお客様へプレゼン。作図にあたっては、縫い・補修・加工・カットが可能か確認し、幅(コース)・リピート(ゲージ)を確定する。

2. パンチデータの作成
機械を動かすためのパンチデータを作成。エンブロイダリーレースは、針を動かさず、フレームが動いて柄を描き出すため、ひと針ひと針のフレームの動きをデータ化するのがパンチ作業。

3. パンチサンプル作成
作成されたパンチデータでサンプルを作る。サンプル機では3〜4.5m程度のサンプル製造ができ、縫いに問題はなかったか、ステッチ感・ボリューム感などの上がりを確認する。

4. 本番生産に向けて準備作業
指示通りの材料(生地・表糸・裏糸)を手配する。表糸は染色し、生地は機械の長さに合わせてカットしたりする。

5. 準備した材料をエンブロイダリー機にセットする
材料(生地・表糸・裏糸)を機械にセットし、表糸を1本1本手作業で糸道通りに通すなどして準備する。

6. 製造
使用する生地や糸の種類によって細かく機械調整を行いながら、ベストなバランスで製造する。

7. シャーリング
渡り糸(柄から柄に飛んだ時に出る不要な糸)のあるものは、渡り糸切機(シャーリング)に掛けて、渡り糸を落とす。

8. 一次検査
針穴・ニードル疵(きず)・柄抜け・汚れ・くぐり糸・縫込み・その他の疵箇所がないか、表・裏各2段階の検査をする。

9.  補修
一次検査で発見した疵箇所を、補修ミシンで直す。

10. 加工
プレセット・溶解・染色・ファイナルセットなどの加工を行う。

11. 二次検査
一次検査とほぼ同じ工程の検査を再度行う。

12.カット
カットの必要がある柄はカット工程を行う。スカラー(縁)は主に機械がカットし、ハンドカットが必要な場合は手で行う。

13.包装
レースの形状に合わせて包装する。包装されたレースは検針機を通して出荷する。

パンチサンプルを作成している様子(上記の工程3)。図案から初めてレースの形になるプロセス。ここで問題なければ、配色見本、本番生産へと進みます。

材料を機械にセットしている様子(上記の工程5)。表糸は1本1本手作業で糸道通りに通します。

検査している様子(上記の工程8と11)。2度に渡りほぼ同じ工程の検査を実施します。

一次審査で見つかった疵を、枠にはめて補修ミシンで直している様子(上記の工程9)。(画像提供/すべて中越レース)

 一番嬉しかったのは、自分がデザインしたレースを使った商品を買ったとき

 

川原:日本のレース産業の現状を、どう見ていらっしゃいますか?

横大路:弊社は富山県に工場がありますが、日本国内のレースメーカーがどんどん減っているのには、やはり危機感があります。必然的に製造技術が海外へと流出していますし、レース作りに必要な職人さんがどんどん減っています。レースというものは、柄を描くデザイナーはもちろんのこと、職人さんの感性が求められんです。熟練した職人さんによる日本の技術が途絶えないことを願っています。

川原:最後に横大路さんが18年間のキャリアの中で、一番嬉しかったことは何ですか?

横大路:自分で描いた柄が初めて採用され、そのレースを使った商品を店頭で見たときですね。それを自分で買ったときは、本当に嬉しかったですし、そのときのことは、今でも鮮明に覚えています。

川原:そのとき、店の方に「このレース、私がデザインしたんです」と言ったのですか?

横大路:言わないですよ(笑)! 今でも、自分がデザインしたレースが採用された商品は、自分で買いに行きます。もちろん、今でも変わらず嬉しいです。

川原:そうなんですか!私が変わりに「このレースは、この人のデザインなんですよ!」と言いたかったです(笑)。本日は、お忙しい中、長い時間お付き合いいただきありがとうございました。レースを見る目が、今までとは違って来る気がします!

インタビューを終えて....

前回登場頂いたタケダレースの橘さん同様、横大路さんもまさに「プロの裏方」でした。メディアの取材は今回が初めてとのことなので、これまで顔や名前は知られなかったかもしれませんが、売れる商品を生み出し、そのレースを通して自分の存在を示してきた横大路さん。物づくりのプロフェッショナルの姿を見せてもらいました。そして、「職人さんにも感性が求められる」という言葉を聞いて、下着というのは、様々な人の力が集結して完成するのだとあらためて感じました。私もレースについて、もっと勉強しなければと思います。

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