Lingerie TALK vol.32『栄レースグループ宮城レース』

栄レースグループ宮城レース(株) デザイナー

大谷 史子さん(後編)

 

その豊かな表現力を生かし

「さすがリバーレース!」と

言っていただけるものを作りたい。

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語っていただく、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。ラッセルレースのタケダレース、エンブロイダリーレースの中越レースと続き、今回はリバーレースで知られる栄レースグループのデザイナー大谷史子さんに登場していただきます。ランジェリーに携わる者、ランジェリーを愛する者にとってリバーレースの魅力は特別なものですが、その世界トップシェアを誇るのが栄レースグループ。今やランジェリーだけでなく、オートクチュールのメゾンとも取引する同社の物づくりと、大谷さんのリバーレースへの想いをお聞きしました。

トップメゾンからあのシューズブランドまで、
世界のブランドがクライアント
 
 

川原好惠(以下、川原):私が日本人だからか、パリのランジェリー展で取材していると、大手ブランドから独立系ブランドまで「このリバーは栄レースのものよ」と言われることがよくあります。

大谷史子デザイナー(以下、大谷):1988年にIGEDOに初出展し、その後はパリのアンテルフィリエール展などの見本市に継続して出展しています。ただ、始めは出展しても実績が上がらず、ヨーロッパ向けに柄を作ってもなかなか採用されなかったことを憶えています。それが、徐々にフランスの大手ブランドが採用してくれるようになり、その後ついに世界に知られるトップブランドでも採用が決まったんです。25年前に入社した頃は想像もしなかったことで、試行錯誤を繰り返した結果なので、デザイン室全体が沸きましたね。

川原:貴社はプルミエール・ビジョンにも出展されていますよね?

大谷:2007年から出展しています。今では、アウターブランドからもたくさんオーダーをいただくようになりました。こちらが、弊社のレースを使用したルックです。

川原:(コレクションの写真を見ながら)蒼々たるブランドばかりですね!ブランド名は書けないので(笑)、誰もが知るフランスブランド、ハリウッド女優御用達のドレスブランド、世界的人気のウェディングブランド…と書いておきますね。(赤いソールで知られるシューズブランドの)このレースパンプスも貴社のレースだったんですね!

大谷:もともとレースはヨーロッパのもので、私たち日本人はそこを目指して技術・デザインを学び、懸命について来ました。こうしてビッグメゾンに使ってもらえるようになっても、追いついたとは思いませんが、ヨーロッパの伝統を受け継ぎながら、東洋の発想を加え、独自のデザインを生んでいければと思います。

川原:海外と日本では、品質に対する考えも異なりますよね。

大谷:繊細で美しいのはもちろんですが、強度もあり、生産効率も考えてデザインする必要があります。日本の物性検査は非常に厳しいですから、私たちは世界で一番厳しいルールの中でデザインしているとも言えますね。でも、それが弊社の強みでもあると思います。

栄レースグループの最新コレクション。世界のランジェリーブランドはもちろんのこと、ファッションのトップブランドでも使われています。

 ドラフトマンに万全な状態で繋ぐのも、デザイナーの大切な仕事

 

川原:そもそも大谷さんは、なぜレースデザイナーになられたんですか?

大谷:もともと絵を描くのが好きで、京都の美術大学で日本画を学びました。卒業後は他社でディスプレイや販促物製作の仕事に従事し、プライベートの時間に絵を描こうと思っていたのですが、両立は無理で……。やはり、「自分のやりたいこと、得意なことを仕事にしたい」と思い、求人誌で見つけ転職したんです。そのとき、レースデザイナーがどんな仕事か知らず、「こんな仕事があるんだ」と思いましたが、絵を描く仕事をやりたくて入社しました。現在、弊社ではデザイナーのことをスケッチャーと呼んでいますが、当時は自由に柄を描くスケッチャーのほかに、そのスケッチャーが描いた柄をドラフティングに繋げるためにさらに詳しく描くフィニッシャーという仕事がありました。私は入社してから、そのフィニッシャーを数年担当しました。絵が描きたくて入社したのですから、当然、スケッチャーの仕事ができると思っていたので、この時期は正直、不満もありましたね(笑)。でも、今思い返すと、そのときにレース作りの基礎をたたきこまれたことが、デザインするうえで大いに生きていると思います。今のスケッチャーは、両方の仕事をこなしています。

川原:大谷さんのお仕事は、どのように進めていかれるのですか?

大谷:お客様の要望をお聞きして作る場合は、ラフスケッチを描いて方向性が決まったら、さらに精巧な図案を描いて提案します。このプロセスをだいたい2〜3回、もちろんもっと多い場合もあります。図案が確定したら、ドラフティングに出し、本生産に入るといった流れです。もちろん、新作として、まったく新しい柄を描く場合もあり、海外の展示会などでは、そのフリー柄を提案します。先ほども話しましたが、リバーレースはドラフトマンの力が大きく影響します。美しい柄を描くことがデザイナーの仕事ですが、その柄も糸の太さ・種類、糸同士のテンション、強弱によって大きく変わります。それを見極めるのがドラフトマン。ドラフトマンが困らないように、デザイナーとして最善を尽くして渡すことももうひとつの大切な仕事です。

川原:デザイナーとして大変なことは、どんなことですか?

大谷:素材を開発する者の宿命でもあるのですが、すでに世に出ているトレンドを追いかけても遅いですよね。自分の直感を信じて、2年後に世に出るものを作って行くのは、大変ですが、やりがいもあります。ただ、最近はロットが減っているので、色んなタイプのテザインをたくさん描かなければなりません。ドラティングなどに時間がかかっていた時代は、生産のスピードも今に比べたらゆっくりで、デザインにも時間をかけることができましたが、今はガシガシ柄を描いていかなきいと、今のスピードに追いついていかないですね。さらに、すぐに結果が求められ、なかなか長い目で見てもらえない。時代の流れではありますが、それはやはり大変ですね。

川原:日本のレース業界が抱えている問題は、何だと思いますか?

大谷:これは社長がよく言っていることなのですが、デザインのコピーはとても懸念しています。情報が一瞬にして流れる時代ですから、市場を見て「あれ?」と思うことも多々あります。コピーを許していては生き残れないですし、コピーのし合いではレベルも上がりません。その対策として、弊社では、コレクションを意匠登録しています。

川原:これからどんなレースを作りたいですか?

大谷:レースのデザインを身につけるのは難しく、長い時間がかかります。私も25年この仕事をやっていますが、極めたという感じはありません。リバーレースはほかのレースにはない豊かな表現力をもっています。その表現力を最大限に生かし、「さすがリバーレース!」と言っていただけるものを作っていきたいですね。

川原:楽しみにしています! 本日は長い時間、ありがとうございました。

【リバーレースの主な生産工程】
  1. デザイン 

糸の動き、用途を考慮しながら、常に新しい感性でデザインします。

2. ドラフティング

完成したデザインはドラフトマンが扱う独自のコンピューターソフトによって、機械が操る糸1本1本の動きで分解され、ドラフトデータに描き換えられます。

3.整経

ボビン・ビームに撚り糸を巻き取り、リバー機にセット。ボビンに30〜50デニールの細い糸を通す作業、そのボビンをキャリッジに固定する作業は熟練の技術を要します。

4.本機織り

ドラフトに基づいて製作されたパンチングカードがジャカードで読み取られ、ビームに整経された20000本余りの柄糸やネット糸がボビンと絡み合い、模様を作り上げます。

5.染色

レース生地は精錬工程で埃や油汚れなどを完全にクリーニングした上で、染色・晒加工されます。

6.テンター

リバーレースは撚り合わせた組織のため、常に一定方向に歪む性質があります。熟練工の細やかなコントロールによりテンター(巾出し機)にかけてこれを矯正し樹脂加工を施します。

7.検反・物性テスト

キズ、歪み、糸抜け、柄抜けなど、何段階にも分けて目視チェックします。また、ピリング、収縮、破裂などの物性テスト、可縫性テスト、洗濯テストを実施し、万全を期します。

8.カッティング・巻き上げ

広巾の状態で生産されたレースはスカラップ(山型の縁)に沿って、高速度のパーフェクターで細巾に裁断されます。その後、板巻き、リール巻きにして出荷されます。

(画像・資料提供/栄レースグループ)

インタビューを終えて……

リバーレースの希少性はなんとなく理解していたつもりでしたが、現在稼働しているリバーレース機が約200台というのは、初めて知りました。その中の87台を所有する栄レースグループ。大谷さんの「さすがリバーレース!と言われるものを作りたい」という言葉には、その技術を継承するリーディングカンパニーとしての使命とプライドを感じました。また、会話の中で頻繁に聞かれたドラフトマンや機械を動かす方々への信頼・尊敬の念。互いを技術者としてリスペクトし、自らの仕事を全うする話は、とても清々しくプロとしてあるべき姿を見せてもらいました。

今回、レースメーカー3社に取材したことで、レースを見る目が変わり、できればレース工場も拝見したいと思いました。私だけでなく、ランジェリーに携わる人皆が、そんな機会に恵まれることを願います。

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