Lingerie TALK vol.36『Chut! INTIMATES』

『Chut! INTIMATES』チーフデザイナー

斎藤ゆかりさん(後編)

 

「新しい価値観、新しい選択肢を提案したい」

それが『Chut! INTIMATES』の挑戦を

決めたときの想い

 

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語っていただく、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。今回は5年目を迎えた『Chut! INTIMATES』チーフデザイナーの斎藤ゆかりさん。ブランド設立以来、毎年2ケタ増の成長を遂げ、現在全国に14店舗をかまえるまでに成長。新ブランドが定着しにくい下着業界において、確かな成功をおさめている同ブランドをデビュー時から率いる斎藤さんは、どのようにキャリアを積んで今に至るのか、じっくりお聞きしました。

縫ってくれる人、販売してくれる人、そして買ってくれる人がいて、
初めて商品として成立する
  

川原好惠(以下、川原):丁稚奉公時代の話の続きを聞かせてください(笑)

斎藤ゆかりチーフデザイナー(以下、斎藤): 転職先の大手下着メーカーのプレステージブランドには、アシスタントデザイナーとして入社しました。そのブランドは、ひとつの製品を最初から最後まで担当するというやり方だったので、チーフの元でその仕事の進め方を学びました。

川原:「最初から最後まで」とは、具体的にはどのようなことですか?

斎藤:デザイン、レースなどの素材開発、パターンメイキング、グレーディング、フィッティングチェック、サンプル縫製員さんに渡すための仕様書作成、サンプル縫製のために必要な素材・資材を裁断してセットすること、工場に出す量産用パターンメイキング……ざっと、そんなところでしょうか。

川原:作業は多岐に渡るんですね。

斎藤:アシスタントなので、先輩方のその作業を手伝うのが仕事です。コピーした型紙を切って厚紙に貼り、縫い代をつけるのですが、先輩によってパターンのエンピツの線の内側を切れという人もいれば、外側を切れという人もいて、間違うともちろん怒られて(笑)。サンプルも、生産するか否かを決めるプレゼン用プロトタイプは自分で縫っていましたね。レースやゴムも自分で染めていましたし、商品として提案する以上、最低限の物性検査をクリアする必要があるので、自分で延々と洗濯機を回したり。

川原:大きい会社でも、そうやって自分でサンプルを縫うのですね。

斎藤:先輩に「自分で縫えない物を工場に出すなんて、お前には早過ぎる!」と怒られましたよ。ただ、先に話した「自分達が作っているのは、“作品”じゃなくて“商品”、“高級品”じゃなく“高価格商品”だ」と教えてもらった、カリスマデザイナーだった先輩との出会いは、私のルーツです。縫ってくれる人、販売してくれる人、そして買ってくれる人がいて、初めて商品として成立すること。売れる商品を作って工場に利益を還元することの大切さ、それを若い時に教えてもらったことに、本当に感謝しています。

川原:そんな丁稚奉公時代は、どれくらい続いたのですか?

斎藤:3年位経った頃、初めて1シリーズまかせてもらい、パリの出張にも行かせてもらいました。18,000〜20,000円程度のブラジャーを作らせてもらっていたので、いい素材に触れられたこと、海外にも頻繁に行かせてもらっていい物を見る目を養わせてもらったのは、本当に財産ですね。

川原:斎藤さんのルーツとも言える、そのブランドを去ることにしたきっかけは?

斎藤:そのカリスマデザイナーの先輩から「10年やって、初めて一人前」と言われましたから、まず10年続けたのですが、自分の中で「新しい物作りのやり方を覚えたい」と思い始めて。転職先は、同じく大手下着メーカーでしたが外資なので雰囲気も違っていましたし、SPA(製造小売業)で価格もそれまで携わっていたブランドの10分の1程度。品番は多く、何よりスピードが求められました。そこでは商社などのサードプレイヤーと仕事していくやり方、マーケットインのデザイン、的確な判断をスピーディに下す事の重要性、数値の分析など、前職とは違うことを学びました。

『シュット!インティメイツ』デビューの2014年春夏イメージビジュアル。

リボンモチーフのエンブイダリーレースが印象的だった2015年秋冬コレクション。

白の下着の表現も、それまでの日本ブランドとは違うモードな印象を与えました。2016年秋冬コレクション。

2017年春夏は、海外で注目されている「スペイサーカップ」を使用したアイテムをいち早く発表。

私達を信じて賭けてくれた人達に恩返しすることが、私の仕事

 

川原:そして、いよいよ2014年の『シュット!インティメイツ』デビューへとつながっていくわけですね。大きな挑戦だったと思いますが、決めた理由は?

斎藤:「下着を好きな人を1人でも増やしたい」そのきっかけとなるブランドを作りたいという気持でしょうか。大手2社を経て、日本の下着ももっと選択肢があったほうがいいと思っていましたし、新しい価値観、新しい選択肢を提案したいと思ったんです。

川原:どの段階で、斎藤さんは加わったのですか?

斎藤:ゼロの段階ですね。市場リサーチ・分析から始め、コンセプトを決め、チームで事業計画をまとめました。ファッションを楽しむ30代の女性が満足できる、デザイン・クオリティ・フィッティングをかたちにしたという感じですね。

川原:『シュット!インティメイツ』の代表作である「シアー シュット!」は特許も取得されていますね。

斎藤:はい、ブランドデビュー前の2013年末に特許申請して、2015年に取得しました。軽い着用感でありながら脇から寄せて引き上げる「シアー シュット!」の“サイドリフト構造”が特許を取得しています。

川原:それ以外にも、オリジナルのサイズ展開を打ち出す「ドレスイージーブラ」も、『シュット!インティメイツ』ならではですよね。

斎藤:日本人女性は下着を選ぶ際の試着を面倒だと感じているというデータがあり、そのストレスを軽くしようという発想で生まれたのが「ドレスイージーブラ」です。

川原:新しい価値観・新しい選択肢の提案を、着実にカタチにしていますよね。これまでで大変だったことは?

斎藤:別にないですね……というか、忙しくて、そんなことを振り返る暇もなかったというのが本音です(笑)。

川原:では、嬉しかったことは?

斎藤:やはり『シュット!インティメイツ』を立ち上げられたことです。企業ブランドとして大きな挑戦だったと思いますが、私達を信じて賭けてくれたことに感謝しています。これからもさらに売り上げを伸ばしてそれに応え、協力工場をはじめ、携わる人々に利益を還元して恩返しすることが、私の大切な仕事です。

川原:これから、どんな物を作っていきたいですか?

斎藤:正直、今は物作りがとても難しい時です。情報量が多過ぎて、ビッグトレンドはなく、お客様も何を買っていいのかわからない。私達は、さらに新しい物を作って提案していかないと。今は、その新しい世界と新しい価値観を模索しています。

川原:これから、ランジェリーデザイナーを目指す人達、今、歩み始めた人達にメッセージを。

斎藤:情熱と想像力をなくさず、とにかく続けて欲しいと思います。デザイナーとは言え、実はとても地味な仕事の積み重ね。下着は他人の目には見えないし、面積は小さいですが、表現できることはかならずあるし、世の中の女性の役に立つ仕事です。私は、ランジェリーに興味を持ってくれる人を増やしたいし、関わる人を一人でも増やしたい。自分達がいるランジェリーの世界は、楽しくて素敵な所だと感じて欲しい、そう思っています。

川原:今日は長い時間、ありがとうございました。

「Hidden Garden」をテーマとした2018年春夏のイメージビジュアル。スタジオに巨大な庭を制作することから始まったという撮影。これらのイメージをまとめ上げるのも、斎藤さんの仕事です。

2015年に特許を取得した、ブランドの顔とも言える「シアー シュット!」。サイドリフト構造で、脇から寄せて引き上げることで、ナチュラルな谷間と美しいバストラインを実現します。

M0、M1、M2、M3、M4、L1、L2、L3という独自のサイズ展開で、ブラを選びやすくした「ドレス イージー ブラ」。

インタビューを終えて……

私が、この対談の連載を始めたいと思ったきっかけのひとつが、斎藤ゆかりさんでした。彼女のような優秀な企業デザイナーの存在を、もっと人に知ってもらうことが、メディアの役割だと強く思ったからです。以前から、ランジェリーデザイナーとしてブレがないと言うか、浮わついた所のない方だと思っていましたが、今回お話を聞いて、本人の言う20代の「丁稚奉公時代」が根底にあるからなのだと、よくわかりました。市場を見据え、毎シーズン新作を発表し、様々な場面で人を説得し、売り上げで結果を出す。それは、企業デザイナーの使命でもありますが、最後の「とにかく続けて欲しい」との言葉は、ランジェリーが好きなだけでは、それが難しいことを物語っているようでした。さらなる飛躍を心から楽しみにしています!

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