Lingerie TALK vol.38 『Wacoal』

『Wacoal』ランジェリー・ディレクター

若代祥世さん(後編)

 

多くの挑戦をすれば失敗も格好悪い経験もある 

でも、そこから得る事こそ 

デザイナーに必要な知識と経験

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語っていただく、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。今回は、1月に開催されたパリ国際ランジェリー展で“デザイナー・オブ・ザ・イヤー2018”を受賞した、ワコールヨーロッパ『Wacoal』のランジェリー・ディレクター若代祥世さんに登場していただきます。これまでヨーロッパ勢が占めていた同賞を受賞した感想、それまでの道のりとキャリアについて、パリでお聞きしました。

日本の下着市場は、世界の中でも特別
  

川原好惠(以下、川原):若代さんはワコールに入社し、京都本社に勤務された後、2011年から中国に赴任、2016年からワコールヨーロッパで「Wacoal」のランジェリー・ティレクターを務められています。グローバルに活躍されていますが、日本の下着市場をどう捉えていらっしゃいますか?

若代祥世ディレクター(以下、若代): 海外で働いて感じたのは、日本は特別な国であるということです。どの国の下着市場を見ても、日本のように大手メーカーが市場をほぼ独占しているという状況はなく、多くの国は上位5社程度とそれを追うメーカーがしのぎを削るような状況です。そのため、それぞれのメーカーが独自のブランド特徴を明確に持っています。

川原:物作りに対する姿勢や環境はどうでしょうか?

若代:素材調達の面では、日本は比較的恵まれているのではないでしょうか。アジア圏のメーカー、とくに近年の中国は生産地としての工場機能だけでなく、開発においても素晴らしい成果をあげています。もちろん日本企業の開発力は、緻密な生産管理や、日本人特有の職人気質をベースとした独自のものがあると思います。そのため、意外かもしれませんが、日本にあって世界にない材料は多いのです。

川原:女性の下着に対する好みにも、お国柄が出るのではないですか?

若代:デザインの面から見ると、一番違うのは色です。ご存知のように、中国では赤が重要とされますが、お客様に「どれが中国の赤ですか?」と質問すると、数点の赤い商品の中から、そろって「これが中国の赤よ」と明確に選ばれます。また、色の見え方は光の反射によって認識するものですが、空気との関係もあるのではないかと思います。ヨーロッパの澄んだ空気にはスモーキーでデリケートな色がよく合いますよね。

また、レースのモチーフの選び方も、日本・中国・欧州では好みが違うので面白いですよ。日本のようにお花畑のような下着売り場は、他の国にはありません。日本の女性はバラや小花が好きですよね。中国は丸い花は好まれず、葉や羽のモチーフ、花であれば可愛さではなく美しさが求められる傾向にあります。ヨーロッパは肌に馴染むフラットな素材が好まれますので、薄く軽く繊細な素材とそれに合うモチーフを選びます。日本の高級ブランドでよく見られる、立体的な花のデザインは日本特有のデザインだと思います。

“デザイナー・オブ・ザ・イヤー2018”表彰式の後のファッションショーでは、『Wacoal』のコレクションが華やかに披露されました。

人間科学研究所のデータとヨーロッパのトレンドをミックス

 

川原:今回のパリ国際ランジェリー展では、“デザイナー・オブ・ザ・イヤー2018”を受賞されたわけですが、受賞作のきっかけとなった『Sexy Shaping』と『Opulence』について、教えてください。

若代:ワコールは1990年にフランスに進出して以来、日本で培った商品開発力をベースとして、機能性ランジェリーを中心に事業展開し、ヨーロッパで「シェイプウェア」と呼ばれるカテゴリーを確立してきました。その代表といえるのが、2018年春夏シーズンから展開している『Sexy Shaping』です。このシリーズは、薄く軽い素材を使用しつつボディコントロール機能を実現しています。秋冬シーズンは新色Rouge(ルージュ)を展開します。

川原:ファッションショーでは、この赤のシェイプウェアがとてもミニマムでモード感があり、セクシーな印象をうけました。

若代:2018年秋冬シーズンから展開を始める『Opulence』シリーズは、日本のワコール人間科学研究所と共同で開発したブラジャーです。これは、日本で蓄積された開発アイデアとヨーロッパのトレンドやヨーロッパ文化をミックスすることで、現代の女性に新しい選択肢を提案するものです。

川原: ワコール人間科学研究所との共同開発ということですが、具体的には、どのようなプロセスだったのですか?

若代:まずは、人間科学研究所にある200点を超える開発試作品のアーカイブを見ることからスタートしました。実は、この作業をヨーロッパワコールに着任する半年前からスタートさせていました。製品化までは、本当に長い道のりでしたが、それを経て様々な環境が整った「今だからできること」を実現し、こうして評価されて本当に嬉しいです。

川原:感性が重視されるヨーロッパにおいて、人間科学研究所の研究内容や機能性を理解してもらうのはハードルが高い気がしますが、実際はどうでしたか?

若代:私は、日本のワコールで開発された機能、素材メーカーや加工メーカーで開発された新機能、新素材を企画のメンバーに紹介するイノベーションミーティングの運営責任者も担当しています。そこで、初めてこの商品について話した時は、正直、皆キョトンとしていましたね(笑)。それがだんだん興味を持ち始めて、いつしか質問攻めになっていました。企画よりも、セールスの人の理解が早かったことを覚えています。各百貨店のバイヤーに説明した時も確かな手応えがあり、「私達は、こんな商品を待っていたのよ!」「早く売りたい!」と言われました。そこで、「私達がやっていることは間違っていない」と。人間科学研究所の数値化されたデータとヨーロッパのトレンド、この2つをミックスしたことで、他にはない新しい商品が生まれたことを本当に喜んでもらえたんですね

『Sexy Shaping』シリーズは、ファッション感度の高いシェイプウェアとして、高く評価され、今回の受賞につながりました。

『Opulence』シリーズは、日本のワコール人間科学研究所とヨーロッパトレンドを融合して開発。象徴的な商品のバックレスブラレットは、皮膚ののびを緻密に研究してパターンが作られています。

デザイナーに必要なのは、学び続けられる姿勢とお客様を知る事

 

川原:今後、どのような商品を作っていきたいですか?

若代:賞をいただいたことで、注目が集まるとは思いますが、浮き足立つことなく、焦ることなく、完成したものをきっちりお客様に届けたいと思っています。今回の受賞は、私自身“完成形の始まり”だと思っています。現在、2019年春夏に向けて、さらなるイノベーションを遂げた新作を仕込み中です。楽しみにしていてください!

川原:下着のデザイナーに必要なスキルは何だと思いますか?

若代::学び続けられる姿勢と、お客様を知る事だと思います。下着は多くのパーツから成り立ち、素材も多様。組み合わせを考えていくと無限にデザインを発想することが可能です。ただ、生み出した商品がお客様に支持されなければ、途端に多くの在庫を残してしまうことになります。これがサイズ構成を多く持たなければならない下着ビジネスの難しいところであり、面白いところでもあります。そのため、機能・素材・トレンド・デザイン・カラー・パターンを学び続けること、そして何より、お客様は何に喜びを感じるのかを理解できていなければ、デザインもフィッティングも作り込むことは不可能なのです。

川原:これからランジェリーデザイナーを目指す方、ランジェリーデザイナーとして歩み始めた方へアドバイスをお願いします。

若代: ワコールの経営の基本方針には、「失敗を恐れず成功を自惚れません」という一節があります。デザインの仕事は、ある限られた範囲だけで物作りをしていては、大きな失敗もない代わりに大きな成功もありません。人より多くの挑戦をしていけば、失敗してハラハラすることや、格好が悪い経験もするかもしれません。でも、そこから得る事こそがデザイナーに必要な知識と経験。そしてそれは、挑戦をした人だけが得られるものです。挑戦し、成功を仲間と分かち合える人は信頼を得る事ができます。挑戦を恐れず、成長し続けられるクリエイターとして活躍してください。

川原:お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。そして、最後にもう一度、おめでとうございます!

上はパリのプランタン、下はロンドンのハロッズ。『Wacoal』は写真のようなヨーロッパの主要百貨店はもちろん、米国や中東、オセアニアなど50以上の国や地域で展開されています。

インタビューを終えて……

『Wacoal』の“デザイナー・オブ・ザ・イヤー2018”受賞は、その企業力あってこそ。ただ、若代さんのお話を聞いて、彼女の実力と努力、そしてガッツが受賞を引き寄せたのだと感じました。ご本人からは、終始ポジティブなお話ばかりでしたが、インタビューの後、若代さんの上司からヨーロッパに赴任された頃のご苦労を聞き、その思いがさらに強くなりました。日本では地方の専門店さんに可愛がられ、中国で活躍し、ヨーロッパで評価されるインターナショナルなランジェリーデザイナー。それでいて気負いはなく、その佇まいはしなやかで軽やか。とてもとても魅力的な女性でした。

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