Lingerie TALK vol.40『ビジュリィ』

『ビジュリィ』ディレクター兼チーフデザイナー

田村静江さん(後編)

 

デザイナーである以上、

常に新しいこと、新しいものにチャレンジしたい。

それをやり続けれなければ、感覚は鈍るから。

 

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語っていただく、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。
今回は、3月5日にアダストリア初のインナーブランドとしてデビューした『ビジュリィ』のディレクター兼チーフデザイナーの田村静江さんに登場していただきます。大手メーカーの有名ブランドを経て新しい挑戦に至るまでの経緯、ファッションアパレルが手掛ける下着ブランドならではのディレクションについて、じっくりお聞きしました。

好きな物つくっただけでは未完成、、売れてこそ初めて喜びに
  

川原好惠(以下、川原):前回は、過酷なコレクションブランドの仕事を経て、大手アパレルと下着メーカーの合弁会社に就職されたところまでお聞きしました。そこには、何年くらいいらっしゃったのですか?

田村静江ディレクター兼チーフデザイナー(以下、静江):約3年ですね。そのブランドの終了が決まり、大手インナーアパレルに転職しました。

川原:その会社で最後に担当されていたブランドの印象が強いですが、入社されてからは、どんな経験を積まれましたか?

静江:けっこう色んなことをやらせてもらいました。冬のインナーの稼ぎ頭である肌着も担当しましたし、技術開発課にも4〜5年いました。その部署は、物作りのノウハウが詰まった心臓部みたいなところ。素材開発から商品開発、フィッティングまですべてを集約したような部署です。産地の方が開発した生地を、共同で商品に仕上げていく作業は本当に楽しくて、勉強になりました。そこで、ブラジャーやガードルなどファンデーションの機能や作りをしっかり学び、そのあと、量販店ブランドや百貨店ブランドのデザインも担当しました。

川原:そして、私も大好きだったブランドのデザイナーになられたんですね。

静江:そうですね。すでにグローバル展開されているブランドを日本に導入することが決まり、海外のテイストをそのまま日本市場に持って来ても売っていくのは難しいということで、私が担当することになりました。

川原:日本での立ち上がりのときからのご担当ですよね。

静江:そうです。モード感やスタイリッシュ感を打ち出し、それまでになかったコンセプトのブランドにしました。

川原:約5年、デザイナーを務められたんですよね。どんな5年でしたか?

静江:本当に楽しかったですね。自分が好きなテイストが百貨店に受け入れられたというのが嬉しかったですし、店頭のアドバイザーからも「売りやすい」「商品が好き」と言ってもらったのも、すごく嬉しかったです。実績も徐々についてきましたし。

川原:企業ブランドである以上、常に実績は求められますからね。 

静江:いくら好きな物を作れても、やはり売れてこそ初めて喜びになるんですよね。好きなことを形にし、それが売れて、ファンができる。その流れを経験できて、デザイナーとして満足感を得られました。それまでにないテイストのブランドでしたから判断が難しかったですが、やはりマーケットは求めていたんですよね、そういうものを。今、世の中は情報にあふれていて、お客様はそれをどんどん消化して自分のものにしています。日本の下着も変わっていかないと、そんな新しいお客様に対応できないと思っています。

初夏になって人気上昇の「ラインレース」シリーズ。ブラレット2600円、総レースショーツ1600円

(左から)バックトライアングルブラレット2300円、ブラレット2600円、ホルターネックブラレット2300円

価格は手頃でも“下着のことをわかっている”者が作るブランドに

 

川原:そして、いよいよアダストリアに転職して、『ビジュリィ』の立ち上げとなるわけですね。コンセプトは?

静江:主な販路は、アダストリア公式WEBストア『.st』(http://www.dot-st.com/)です。その中の約20のカジュアルブランドと並べて、なじむ下着ブランドというのが第一。市場では、ブラレットやノンワイヤーが流行していることもあり、思いっきりファッションを意識したブランドを作ることに。とはいえ、シンプルなだけではなく“女心を持ったノンワイヤー”をつくることからスタートしました。

川原:これまでとは、物作りの環境も変わりますね。

静江:売れ筋もまったく違うんですよ。専業ブランドではベージュは必須ですが、黒が一番売れる色ですし、月によって売れる色も大きく異なります。今は薄いパッドが入っただけの、かぶりで着けるタイプが人気。長年、下着業界にいてしみついた常識が通用しない、というのを実感しているところです。

川原:価格も、かなり違いますね。

静江:はい、前職では1万円程度のブラジャーを作っていましたが、カジュアルブランドの中で売っていくわけですから、それに合わせて価格も約1/3に。ただ、価格は下がっても、“下着のことをわかっている”者が作るブランドとして、パターン、仕様、肌あたりなどにはこだわっています。

川原:これからの課題は?

静江:実店舗がない中で、お客様にどう商品の魅力を伝えていくか、どう知名度を上げていくかが課題です。ECサイトが主な販路である『ビジュリィ』は、これまで、店頭でアドバイザーが伝えていてくれたことを、画面のビジュアルと文章だけで伝えなくてはなりません。どうすればお客様に知っていただけるか、商品構成も含めて、色々なことにトライしています。

「シェルレースシリーズ」左からブラレット2900円、プッシュアップブラレット2900円、ホルターネックブラレット3300円

「レトロフラワーシリーズ」Yバックブラレット2900円、総レースショーツ1600円

素材を知らなければ、デザイン画は書けない

 

川原:これからランジェリーデザイナーを目指す方へ、アドバイスをお願いします。

静江:まずは、素材を知ることでしょうか。私は学校を卒業して初めて勤めたコレクションブランドのデザイナーに「素材の知識がなくては、デザイン画は書けない」と教わりましたし、私も素材の特性を知らなければデザイナーは務まらないと思います。最近は、優秀なOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーさんも多く、雑誌の切り抜きなどを見せてイメージを伝えればレースの提案までしてくれると聞きます。自分のデザインに適した素材、ワイヤーなどの資材や付属品を選び、仕様を決め、完成をイメージできるのが、本来のデザイナーです。それができるようになるには、やはり素材を知ることなんですよね。

川原:これまで仕事をしてきて、辛かったこと、嬉しかったことは?

静江:辛かったことはないですね。嬉しかったことは、いつもです(笑)。何回か転職もしましたが、その都度、好きな仕事ができていますから。ただ、心配なのは、以前、一緒に物作りをしてきた産地が衰退していることでしょうか。海外に生産がシフトしていくのは仕方ないことではありますが、素晴らしい技術を持った職人さんの後継者がいなくて、その技術が継承されなくなっているのは、とてもはがゆいし悲しいですね。経編みでも付属品でも、一緒にやっていければ、新しい商品が生まれると思うのですが……。

川原:これから、どんな物をつくっていきたいですか?

静江:デザイナーである以上、常に新しいこと、新しいものにチャレンジしたいです。それをやり続けなければ、感覚は鈍りますから。たしかに大変エネルギーがいることですが、昨年転職しなければ、今のチームで仕事をすることはなかったわけで、だからこそ新しい物を作り出すことができました。これからもそのチャレンジを続けたいと思います。

川原:長いお時間、ありがとうございました。これからの『ビジュリィ』の展開を楽しみにしています!

6月3日(日)まで、niko and...TOKYO店1Fで開催されているポップアップショップ。

インタビューを終えて……

静江さんが前職で担当されていたブランドは私も大好きで愛用していただけに、離職されたときはファンとしてショックでした。数ヶ月後、新たなステージで活躍されていると聞き、さっそく取材へ。そこで見たのは、これまでとは大きく異なる環境の中、その変化を楽しむように、しかも着実に自分の仕事をやり遂げられている姿。とても感動しまし、「タフな女性だなぁ」と思いました。キャリアを重ねるほど、年齢を重ねるほど、安定した場所を捨て、新しい仕事に挑むのは精神的にも肉体的にも難しくなるもの。それを、軽々と越えている(ように感じた)静江さんに勇気と元気をもらいました。デビューしたばかりの『ビジュリィ』が、若い人達に下着の楽しさを伝え、新しいマーケットを開拓してくれることを大いに期待しています。

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