Lingerie TALK vol.42 ワコール 品質保証部 商品試験センター

ワコール 品質保証部 商品試験センター/繊維製品品質管理士

北尾朱美さん(後編)

品質管理の仕事は完璧にできて当たり前

褒められることはなくても

「頼りにされている」ことがモチベーション

ランジェリー界で活躍する方々のルーツ、ポリシー、そして夢を語っていただく、「Lingerie Talk @ Lingerie Press」。今回は、ワコールの品質管理を担う商品試験センターの北尾朱美さんに登場していただきます。ワコール独自の厳しい基準をもうけているという品質管理の現場は、厚いヴエールに包まれているのかと思いきや、とてもオープンで施設内の隅々まで案内していただきました。品質管理という下着にとってなくてはならないお仕事の現場をお伝えします。

私たちのミスは会社のミス、責任は重大です

川原好恵(以下、川原):北尾さんは、どのような経緯で品質管理に関わる仕事につかれたのですか?

北尾朱美さん(以下、北尾):私は大学で繊維について学んだあと、1996年にワコールに入社し、この商品試験センターに配属されました。

川原:入社された当時と今では、商品試験センターの仕事に違いはありますか?

北尾:大きく違います。現在は私を含めて18名のスタッフがいますが、入社した当時は5〜6名しかいなかったんですよ。その頃は、毎日試験をやって報告書を仕上げるだけで仕事が終わっていたので、その人数でもできていたんですね。

川原:今は仕事内容も違うのですか?

北尾:年々、我々の品質管理への要求が強くなってきているため、仕事が違うのではなく、増えていっています。まず、機能を備えた素材がとても増えました。そのひとつひとつに対して、お取引先はもちろんのこと、お客様も情報の開示を求めてこられます。例えば、肌着の「吸汗速乾性」や「保温性」といった機能をうたうのであれば、その裏付けとなるデータを用意し、いつでも情報開示することが可能です。安全で安心な商品であるかの検査だけでなく、商品に付加価値をつけるための機能性を評価することもこの商品試験センターの役割になっています。
また、新しい部材もどんどん増えています。ワコールが使える部材がどうか判断するには、どんな試験を行なえばいいのかを検討することから始まります。時として部材メーカー様のもとへ出向き、情報を収集し、ワコールの商品に本当に使えるかを社内調整して進めていくわけですが、これは経験がないとできない仕事ですね。それらをすべて、限られた時間の中でやらなければならないですし、万全な管理が出来るものでないといけません。その結果、必然的にスタッフの数も増えたわけです。

川原:品質管理のお仕事のやりがいとは?

北尾:品質管理の仕事は、褒められることが、まずない仕事です。高いレベルをキープすることは大変なのですが、それはできて当たり前なんです。ただ、「頼りにされている」という実感は、仕事のモチベーションになります。検査に手間のかかった新しい素材や部材を使った新商品が販売されているのを見ると、子供が一人立ちしたのを見るような気持ちになりますね(笑)。

川原:本当に裏方のお仕事ですが、重要な任務ですね。

北尾:私たちのミスは会社のミスになり、大きな損失となりますから、確かに責任は重大。油断も手抜きも許されません。ただ、すべて人間がやっていることですから、ヒューマンエラーがゼロというのはなかなか難しいこと。万が一、何か起きた場合は、すぐに対処し、なぜそれが起きたのかを追求し、かならず同じミスを繰り返さないようにしています。

京都のワコール本社ビルから徒歩3分ほどの場所にある、ワコールアクティブセンター。この中に商品試験センターがあります。

印象深いのは、入社2年目で担当した「ベビーヒップパンツ」

川原:今までお仕事された中で、何か印象に残っている商品はありますか?

北尾:1998年秋に発売された「ベビーヒップパンツ」ですね。生地の編み方の強弱によって、おなかおさえやヒップアップ、太ももコントロールの3つの機能を備えたもの。そんなガードルのような機能を備えているのに、一枚ばきできるという画期的なものでした。

川原:覚えています!「小尻」という言葉を流行させたヒット商品ですよね。

北尾:「ベビーヒップパンツ」に使われた素材は、今までにないまったく新しいもので、見た目の生地がレース調だったのでレースの基準で検査すればいいのか、パワーネットの基準で検査すればいいのか、まずそこから大問題でした。素材メーカーや弊社の担当者などと何十回と議論を闘わせて、試験評価を作り上げました。私はまだ経験も浅かったのですが「君の判断を信用する」と言われたことは本当に嬉しかったですし、「良い商品を世に出したい」という一心で頑張れました。ヒットしたときの喜びは、今でも忘れられません。

川原:大変だったことは色々あると思いますが、とくに印象深いことをあげるとすれば?

北尾:弊社は今、素材を供給してくださっているお取引先や、海外ワコールの商品試験室と協力して、この商品試験センターと同様の品質検査を行える設備を整えていただき、それが基準を満たしているかどうかの、レベル確認を定期的に行なっています。海外の試験室の立ち上げのために、1〜2週間、長いときは3週間ほど海外に出向くことがあるのですが、日本と同じレベルの試験室を作るというのは、本当に大変で……。約束の期日までに必要な機械が何も届いていなかったり、通訳がまったく機能せず筆談で説明したり(笑)。日本の常識が海外で通用すると思ったら、大間違いでした。でも、時間は限られていますから、その中で結果を出さなければならない。時として深夜近くに及ぶ作業もありました。そのためには現地の状況に合わせて臨機応変に対応する柔軟性も必要です。また、これ以上はできないとなれば、無理をせず、改めて仕切り直しをするという判断もその場で行ったりもします。今も、若いスタッフを送り出すときは、使命感から頑張り過ぎて現地で体をこわさないようにと、日本の常識は海外の常識ではないから、と言っています。

川原:これからの仕事の目標は?

北尾:商品試験センターで働く全員がレベルアップし、精度を上げることですね。手抜きも油断も許されない仕事ですから、日々、気を引き締めてやっていきます。なので、商品試験センターのメンバーとは、なんでも言い合える関係でいたいと思います。

川原:今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

北尾さんが印象に残っている商品として紹介してくださった「ベビーヒップパンツ」が紹介されている1998年秋冬カタログ。ガードルのような機能を備えていながら一枚ばきできるボトムは話題となり、大ヒットしました。

インタビューを終えて……

日本の下着の品質の高さは、世界に知られるところ。その基準となる現場を間近に見られて、大変勉強になりました。検査項目の細かさはもちろんですが、検査をするための環境を整えることに、こんなに厳しい基準があり手間がかかるのかと驚きました。「できて当たり前、褒められることはない」、でもミスをしたら大きな問題になり会社に損失を与えるという緊張感やプレッシャー。その中で粛々と仕事をされてきた北尾さんのお話を聞いていると、日本の下着の品質を守り、リーディングカンパニーである自社の信用を背負っているという、静かなプライドと自信のようなものを感じました。

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